矢野さんはまず、環境には地下深い「表層地質」、その上部に堆積してできた「土壌」、それら2つによって形作られた「地形」といった3つの大地のファクター(要素)と、大地の上に生育する「動植物相」、人間による「生活相」といった生物のファクターがあり、以上の5つの間を動き続けている「水」と「空気」、自転・重力・引力などの「宇宙エネルギー」の計8つのファクターがあると紹介。「この8つが小さな空間(ミクロ)から大きな空間(マクロ)まで、相対的につながって連動している。地下のすき間と地上はすべて空気によってつながっていると言える」と説明した。
建物と土壌、緑の関係については、昔の木造建築と現代の建物を比較しながら「昔の建物は石や平板など自然なすき間を持った材料で仕切られ、土壌の中を無理なく空気と水が動けたが、現代は人工的なコンクリートやブロックで仕切られているため、大地での水と空気の入れ換えが滞り、植物の根の呼吸も弱くなっている」と指摘。さらに「土壌の空気と水がよどむことで有機ガスが停滞し、病菌類のバクテリアが増え、植物たちは不健康な状態になっている」と解説した。
再生を手がけた沖縄県の山原(やんばる)の森を例にあげて「周囲のコンクリートの建物やダムなど人間の開発によって、土壌の水脈が遮断され、植物は衰弱。最初見た時はもう戻せないと思った」と、樹木が衰退していた当時をふり返りながら「水脈を改善すれば、森が回復していくことを発見し、まずはミクロの部分の『点』を改善。次第に、「線」や「面」に波及し、大地全体が改善した」と述べた。
水脈については「人間で言えば、血管のような存在で、地形の起伏を見ながら読み解いていく。つまっているポイントを開放してやれば、空気と水が動きやすくなる」と語り、「コンクリート開発によって日本列島全体の水脈が弱っている。土木、建築をはじめ、大地の水脈を改善する視点を持たなければならない」と訴えた。
森林再生の作業体験
徳昌寺の敷地約6611平方㍍では、今年1月末から矢野さんらによる森林再生の作業が行われており、講座では受講者たちも作業を体験した。
矢野さんの手が入る以前、同寺では倒木やナラ枯れなど森林被害のほか、降雨後には随所に「池のような」水たまりができていた。
同寺での作業が終了するにはメンテナンスを含めてあと1年ほどかかるとのことだが、すでに水たまりがほとんどなくなったり、建物内の湿気が改善したり、植物が元気になるなどの効果がはっきりと出ているという。
矢野さんの作業は、樹木や建物の配置から新たにつくる水脈の場所を考察し、状況に応じて深さ50㌢前後の側溝を掘り、そこに廃木や枯れ竹、炭などの植物有機材を入れ、空気を通すためのパイプなども併用する新しい手法。
受講者たちは矢野さんの手本を見ながら、協力し合って作業を体験していた。愛知県額田郡から参加した渡邉敦子さん(40)は「自然のする仕事の意味を知り、それを自分でできることを教わりました。実践していきます」と話していた。
【矢野智徳(やのとものり)】造園技師、環境再生医。福岡県北九州市生まれ。子どものころから植物園で育ち、東京都立大学理学部地理学科時代は自然地理を専攻。全国各地を放浪して各地の自然環境を把握。平成11年には環境NPO杜の会を設立。山梨県を中心に各地で大地再生の講座を開いている。 (文・写真=山田貴之)
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