彦根市は10月29日、執筆者側との折り合いが付かなかったため、彦根市史の「第4巻 通史編 現代」を刊行せずに、これまでに発行した計11巻で新修 彦根市史を完了させると発表した。これに対し、執筆者側も31日に会見を開き、法的手続きに入る意向を示した。
市は昭和30年代に作られた彦根市史に替わる新修彦根市史の制作を平成6年度から開始。これまでに史料編5巻、通史編3巻、景観編、民俗編、便覧・年表を1巻ずつ発行している。
市史編さん室によると、「現代」については昭和20年8月15日から平成22年3月までの市史の執筆を大学教員6人に依頼し、平成21年12月までに約700ページ分の原稿が完了した。しかし市はいくつかの内容に関して「新聞からの引用が多いなど参考資料に偏りがある」「市の歴史的事実が取り上げられていない」「一面的な印象を与えるおそれがある」などとして修正を求め、本来の刊行予定だった平成22年3月に発行せずに先延ばしをしてきたが、折り合いがつかずに刊行中止を決定。10月2日に執筆者側に、同7日に市史編さん委員会に説明した。
調整がつかなかった内容について市は、浄水場の普及や河川改修、合併前の高宮や鳥居本などの記述がないことをあげたほか、近江絹糸の労働争議問題については「11ページを使って、労働者側の勝利の記事になっており、一面的」と指摘した。すでに市は、執筆委託料として541万2000円、見本の作成費など225万7000円を支払っている。
大久保市長は会見で「現代史は当事者が存命のため、出すのは難しい。(相違の)ボリュームから見て歩み寄りは困難と判断した。目標を達成できなかったことにお詫びする」と話した。今後、市史編さん室を廃止し、歴史文化遺産研究室(仮称)を設置する予定。
「戦後通史を届ける責務」
市に反論「人権へ冷淡」指摘も
一方で、執筆した大学教員ら6人は、彦根市議に提出した文書や会見で「今回の問題の原因は前市長の編集過程への介入によるもの」とした上で、市側の指摘に対し「どこを修正すべきか文書で指示するよう度々要請したが、出されなかった」と反論。「市長の交代でこの問題の見直しが期待されたが、中止判断の具体的な理由や根拠、補正命令などの伝達は一度もなされず、知らぬ間に市が(刊行中止を)決定していた事実を10月に知った」としている。
また労働争議問題に対する市側の主張については「歴史研究の現状や学問的到達点に無関心なだけでなく、人権問題そのものへの冷淡さを示すもの」と非難。「彦根の戦後の通史を届ける責務を何としても果たしたい。多額の税金を無駄にさせてはならず、真相を明らかにしたい」と法的手続きに着手する考え。
会見で元神戸女学院大学教授で執筆者側の上野輝将代表は「戦後史をまとめていない自治体は無い。本当にそれで良いのか」と話している。