彦根市が彦根城の世界遺産登録に向けて提出した推薦書原案の骨子に対し、文化庁の文化審議会が「開発中の事業の適切な検討」などを求める課題を示していたことがわかった。
世界遺産を目指すうえでの懸案事項は登録済みの姫路城との差別化だが、その問題をクリアするには、外国や将来世代に
も理解できる「顕著な普遍的価値」を証明する必要がある。
彦根市は江戸時代の武士が城とその周辺に住み、一体となって「統治」していた社会構造に着目。個別の領地を支配していた戦国時代の武士が、江戸時代に統治者へ転換したとして「彦根城がその統治を表した代表的な城だ」と説明している。
登録範囲については中堀より内側と埋木舎の特別史跡に絞った形での登録を目指す。具体的には彦根城の天守、櫓、藩主が住んでいた表御殿跡、旧藩校の弘道館跡、槻御殿、玄宮園、重臣屋敷、埋木舎。一時期、市は登録範囲の候補に外堀土塁や辻番所、井伊神社なども入れていたが、現在は参考物件としての緩衝地帯(バッファゾーン)の位置づけに止めて、あくまでも特別史跡内のみで勝負する考えだ。
市は滋賀県と連携し推薦書原案の骨子を作成し今年3月に文化庁へ提出。これに対し5月20日に開催された国の文化審議会世界文化遺産部会では、▽「統治」を軸とする顕著な普遍的価値の妥当性の更なる検討▽主張する価値についての国内の城や外国の「統治」との比較研究の継続▽緩衝地帯の範囲の妥当性の更なる検討▽緩衝地帯とその近郊で進行中の開発事業の適切な検討が必要―などの課題が示された。
緩衝地帯などでの開発事業には国体主会場の整備を含むとみられるため、文化庁の課題提示に対し、市としては今後、整備計画の変更が必要になる可能性もある。市は今年度から2021年度までに推薦書原案を作成し、22年度の推薦、24年度の世界遺産登録を目指している。
啓発パンフを無料配布
彦根市は啓発用パンフレット「彦根城を世界遺産に」を作成し、市内の公共施設で無料配布している。
パンフレットでは、登録を目指す特設史跡内の建物を写真入りで解説しているほか、「彦根城を見れば、江戸時代が分かる」とのキャッチコピーを中央に配して、重点に置いた「統治」について説明している。
最終ページでは世界遺産への道のり、彦根城世界遺産登録 意見交換・応援1000人委員会などを紹介している。A3判二つ折り。7000枚作成し、彦根市民会館、開国記念館、彦根城博物館、市立図書館、各地区公民館などに置いている。