彦根市が新修彦根市史・第4巻 通史編 現代の発刊を中止した問題(※)で、市監査委員は先月25日、「今年中に書籍として刊行すること」を勧告。市長は「勧告を重く受け止めるが、年内の刊行は難しい」と述べている。
市民5人が昨年末に提出した請求では「市と市史編集委員会との間で締結された業務委託契約には市が締結後50年間、目的物の出版権を有し、出版権を有する市には著作権法により出版の義務があり、市が出版しないことは違法」「市史編集委員会が業務委託契約の規定による検査に合格し、引き渡しを終了する時は契約金額を支払う旨を明記している。また市が刊行物を発行できた時にその引き渡しを受けたとみなす、としている」と指摘。
▽「通史編 現代」を刊行する▽刊行できない場合には、前市長に対して、執筆者らと印刷所に支払った額を市に支払わせる▽執筆者や印刷所が受領した額を市に支払わせる―ことを求めた。
これに対し市監査委員は「出版できる権利を有するにもかかわらず、書籍として刊行しないのであれば、編さん大綱および委託契約に違反する」「彦根市が取得した財産は出版することができるという権利であるから、閲覧に供しているだけでは管理が適法に行われているとはいい難い」として、刊行するよう勧告した。支払った額の返却については「1年という監査請求期間を経過しているため要件を満たしていない」として却下された。
大久保市長は「私としては意外な監査結果。勧告を重く受け止めて、民事調停の場で話し合いたいが、(勧告にある)今年中の刊行は物理的に困難」と話している。
※解説=市は平成6年に新修彦根市史編さん大綱を制定し、それまでの彦根市史をリニューアルした市史作りを始め、史料編5巻、通史編3巻、景観編、民俗編、年表・便覧を1巻ずつ発行した。
残りの「通史編 現代」は昭和20年8月15日から平成22年3月までの市史。市は大学教員6人に執筆を依頼し、市史編さん室と執筆者との意見交換、原稿修正を経て、平成21年12月までに700ページ分が完成。翌年3月17日に執筆料約541万円が執筆者に支払われ、同年5月11日に約225万円(翌年2月29日には残りの約25万円)が印刷所に支払われた。しかし市は「内容が一面的」などとして修正を求め、その後も折り合いがつかずに、昨年10月末の刊行中止の発表に至った。現在は市と執筆者側で民事調停中。
大久保市長にとっては前市長時代からのお鉢が回ってきた形だが、刊行を求めた市監査委員の「意外な」(市長談)勧告は、市の考えよりも請求した市民の主張が正しいという指摘だと言え、あとは市長の決断次第である。 (山田)